シャロンの薔薇

聖書から学んだこと・日々の出来事・ハンドメイド

『おかえりモネ』 ~橋を渡るということ~

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                 宮城県気仙沼市・唐桑の海

 

NHKの朝ドラ『おかえりモネ』も、はや終盤に‥。

どんなエンディングになるのか、ワクワクしながら見ています。

 

3.11、地元の大津波の惨状を、この目で見ていなかったモネ。

その事実に、ずっと後ろめたさや負い目を払拭できずにいた

モネですが、たくさんの人との出会いの中で成長し、葛藤を

乗り越え、目標が定まり、ついに地元に戻る決断を下します。

 

気象予報士となったモネは、震災後に開通した“橋”を初めて渡り、

帰郷します。モネの実家がある亀島(大島)と本土をつなぐ橋は、

事実、気仙沼市民にとって長い間の夢でした。

 

船で渡れば30分もかからず大島に着きます。ただ、有事の時に

橋があれば‥という思いは、ずっと市民の心の中にありました。

1960年のチリ地震津波は、その思いをより深める出来事でした。

 

東日本大震災から8年後の2019年4月、市民の悲願であった

夢の架け橋が開通しました。昔を知る者にとって、架橋の実現は

本当に画期的なことです。生前、建築業に携わっていた義兄の

大志でもありました。堂々とした構えの白亜のアーチ橋を、

義兄にも見てほしかったと心から思います。

 

橋が出来たことで、大島と本土をつなぐ定期船は100年の歴史に

終止符を打ちました。

 

カッパえびせん(餌)に集まる海猫(カモメ)との楽しい船旅は、

気仙沼の風物詩の一つでもありました。私も進学で地元を離れる

までの15年間に、家族や友だちと何回、この船に乗ったことか。

私の心には、橋の完成の喜びと、あの光景はもう見られないという

寂しさが、ずっと隣り合わせで残ることでしょう。

 

モネは「津波を見ていなかった」「何も出来なかった」という

心の傷に真摯に向き合い、それを踏み台にして、一歩、前に

進みました。橋には“つなぐ役割を果たす”という意味があります。

橋を渡るということは、不十分、不完全なものを修復し、整える

ことに通じます。橋を渡るのは勇気をもって一歩を踏み出すことで、

このドラマのテーマの一つとも言えるものです。たとえ橋が出来ても、

渡ったとしても、いつも順風満帆というわけではありません。でも、

一つ前へ進むことの大切さを、このドラマは教えてくれます。

 

朝ドラに多いヒロイン一代記と違い、ドラマチックな展開では

ありませんが、モネの心の動きや成長の過程が、ゆっくり、丁寧に

描写され、静かな時の流れに心地よさを覚えます。登場人物たちの

滋味あふれることばには共感するものが多く、いわゆる悪役と

言われる人が登場しないのも、安心して見ていられます。

 

一日の始まりに、爽やかな風を吹き込んでくれる、純文学のような

調べの作品に出会えたこと、舞台が懐かしい郷里であったことも

本当に良かったと思っています。