シャロンの薔薇

聖書から学んだこと・日々の出来事・ハンドメイド

オシム語録 「水を運ぶ人」

サッカー日本代表監督、イビチャ・オシムさんが、5月1日、

お亡くなりになりました。ふさわしい言葉が見つからないのですが、

得も言われぬ喪失感、寂寥感に包まれています。

 

監督としての手腕は言わずもがな、ちょっと天邪鬼にも聞こえる

けれど、ユーモアと機知に富んだ独特な言い回しが、サッカーファン

のみならず多くの人を惹きつけ、病で退かれた後も変わらぬ人気を

集めていたのでしょう。日本代表戦後のインタビューに真摯に答える

オシムさんの戦評を、毎回、心待ちにしていたので、それがもう

叶わないのは残念でなりません。

 

オシムさんのことを哲学者とか心理学者とか評する人もいますが、

それほどオシムさんの言葉には、経験に裏打ちされた深い洞察力、

あふれる知恵と知識が詰め込まれていました。オシム語録といった

本が何冊も出版されていることからも明らかです。会う人すべてに

影響を与えるサッカーの智将。日本サッカーの発展に大きく寄与した

功績は、いつまでも人の記憶にとどまるに違いありません。

 

オシム語録と言われるもののうちで、私が最も印象に残っているのは

「水を運ぶ人が必要だ」というフレーズです。通訳を務めていた

千田善さんの著書オシムの伝言』の中の一節を引用してみます。

 

オシム監督がよく使う表現に「水を運ぶ選手」というのがある。

ゴールを決めた選手ばかりに注目するのではなく、目立たないが

大事なサポートをする「汗かき役」あるいは「汚れ役」の選手を評価

する時に使う。‥‥サッカーでは「水を運ぶ選手」ばかり集めても

つまらない。「水を運ぶ選手」と「エレガントな選手」をうまく

組み合わせて初めて、良いチームができる。‥‥いつもクールで、

クレバーで、正確なテクニックで効果的なプレーができる――それが

サッカーにおける「エレガント」ということだ。

‥‥「おいしい水でなければならない。泉からわいたばかりの、

冷たい水だ。日本にもワサビを栽培する泉があるだろう。ああいう

ところの水だ」

千田さんはこうまとめています。

結局、オシムさんの言いたかったことは、次のようなことだったの

かもしれない。「冷たくておいしい水をたくさん、エレガントに運べ!」

 

海外サッカーの模倣ではない、日本サッカーの「日本化」を掲げ、

世界基準を目指しつつも、日本人の長所をチームに落とし込む。

このテーゼがあってこそ、今の日本サッカーの地位が確立したと

言っても良いのではないでしょうか。

 

ふり返れば、私がサッカーを見始めるきっかけを作ってくれたのは

オシムさんだったのかもしれません。夫が「中央大出身の良い選手が

いる」と教えてくれたのが、当時、川崎フロンターレでプレーしていた

中村憲剛選手。オシムさんが、その憲剛選手の才能を見出し、日本代表に

抜擢。それ以来サッカーの面白さにに嵌り、現在に至るというわけです。

 

中村憲剛さんの引退セレモニーでは、オシムさんの近影がメッセージと

共に映し出されました。「憲剛は日本サッカー界の至宝」というような

称賛の言葉を贈っていたと思います。きっと憲剛さんはオシムさんに

とって、おいしい水を運ぶエレガントな選手の一人だったのでしょうね。

 

サッカーというスポーツの枠だけでなく、人生のあらゆる局面に

向き合うためのヒントを与えてくださったオシムさんに、心から感謝を

申し上げたいと思います。オシムさん、どうぞ安らかに‥。