映画監督だった熊井敬さんの奥様で、ポプリ研究家、エッセイストの
熊井明子さんのお洒落な文章が好きです。
博識を絵に描いたような方で、ご自分で紡ぎだされる言葉はもちろん
極上のものですが、古今東西の名言至言を、かくも軽やかに、そして
インプレッシブにつないで綴るテクニックに、思わず唸ってしまいます。
まるで宝探しをするかのように、熊井さんの本を矯めつ眇めつして
いる私です。
たとえば、こんな名言はどうでしょう?
~『私の部屋のポプリ』から~
◇「頭痛とは、頭の芯にはめこまれた不吉な宝石」
トルーマン・カポーティの言葉だそうです。
◇「赤貧ほどではないから、ピンク色のびんばふ(貧乏)」
これは片山廣子さんの『燈火節』の一節。
こんな常套句ではない表現に惹かれ、すぐ雑記帳に書き留めています。
そして、流れるような調べの詩を一つ‥
青い夕べ 深尾須磨子
雨上がりの夕べを梟(ふくろう)が鳴いて
白楊のしげみの月の涼しさ
めずらしくも はればれと
独り居をきらう私の心よ
誰か 誰か
訪れてくれる人はないか
この新鮮な草いちごを
共にほめあう人はないか
このこうばしい紅茶の湯気を
かぎながら語り合う人はないか
白い窓かげが微風をふくめば
私の揺れいすは花のようにゆれる
誰か 誰か
訪れてくる人はいないか
気がるにそよぐ葉ずれのように
語りたさの青い夕べの心だ
熊井さんの著書から、キラリと光る言葉の宝石を見つけて、
引出しをいっぱいにしたいと思います。