シャロンの薔薇

聖書から学んだこと・日々の出来事・ハンドメイド

最後の砦となる

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先日、友人から借りて読んだ一冊の本を紹介します。
『あなたを諦めない』~自殺救済の現場から~
                               (いのちのことば社
著者は和歌山県の白浜バプテスト基督教会の、藤藪庸一牧師。


重いタイトルですが、清々しい読後感のある良書。
幾例もの記録を通して、孤独の隣に、絶望の向こうに、最後の
砦となってくれるものがある‥。“諦めなくて良い”という
一縷の希望が見えるからかもしれません。

 

自殺の名所としても有名な南紀白浜の三段壁。この場所には
「いのちの電話」の看板が立てられているそうです。電話は
NPO白浜レスキューネットワークの活動もしている藤藪牧師に
つながります。人は崖に立ち、今まさに飛び降りようとする
瞬間にも、誰かに自分の存在を知ってほしいと願う意識が
働くものなのでしょうか。受話器の向こうから、「助けて
ください‥」という悲痛な叫びが後を絶たないことからも、
それがよく分かります。

藤藪牧師が活動を始めてから、昨年末までに救助した人は

905人に上るそうです。連絡を受け三段壁に駆けつけ、自殺

志願者を保護し、共同生活を通して彼らに生活再建の道を
指し示すという、当事者でなければ分からない、骨の折れる
支援活動です。

皆が皆、立ち直って人生をやり直しているわけではなく、
同じ失敗を繰り返す人、去っていく人のことも正直に
綴られています。一度、人生を諦めかけた人とどう関わり、
自立への道につなげていくか。ゴールの見えない道を
手探りで進んでいくような、活動の難しさを知るにつれ、
藤藪牧師の苦悩と葛藤が胸に迫ります。

「あなたの隣人を愛しなさい」
よく聞く聖書のことばですね。隣人とは誰でしょうか?


「死にたい」と訴え続けてきた30年来の友人がいます。今は
手紙や電話のやりとりだけですが、電話が来るのは、いつも
極限状態の時。2時間、3時間に及ぶこともあります。
もし私が受話器を置いたらどうなる? そう思うと怖くて
無下に切ることもできません。次第に手に負えなくなり、
教会の牧師に委ねることにしました。今は時間を決めて
対応していただくことがほとんどです。

友人は以前、同じマンションの住人でした。年長の私を頼り、
私が行く先々に同席するようになりました。絵画教室や教会
にも集いました。ご主人の転勤で遠方へ引っ越すまで、
わずか1年ほどの短いお付き合いでしたが、彼女の人生に
とって最も輝かしい期間だったようです。
複雑な人間関係に疲弊し心を病み、パニック発作を頻発。
その度に心の闇が深くなっていく印象でした。ただそれは、
光は闇より強いということを実感する時でもありました。
闇に押しつぶされそうになっても、人は光の方向へと引き
寄せられるのです。「『「もうダメだ」と思った時、何故か
あの頃のキラキラして楽しかった場面が浮かんできて、心が
落ち着くの」。彼女がよく口にすることばでした。人生の
ハイライト‥、彼女にはそれが最後の砦なのだと思います。

正直、時間を割かれるし、負の連鎖で気が滅入るし、申し訳
ないけれど勘弁してほしいと何度、思ったことでしょう。
でも、「あなたの隣人を愛しなさい」なのです。藤藪牧師の
ことばが心に突き刺さります。

「ここで試されたのは、牧師としての使命感でも信仰でもない。
 神が人間に与えてくださった『良心』だった」

この厄介な相手を諦めないという良心。この良心も神様が
くださる賜物です。これを手放すことは、神様の求めに応え
ないこと。良心は、しっかり握っておくもの、手放しては
ならない賜物なのだとあらためて思いました。

あなたを諦めない‥
この思いが伝わる時、その人の隣人になれるのだと思います。
隣人の存在は、その人にとっての最後の砦にもなるのだと。
私にできることは、彼女を諦めないこと。ただ彼女のために
祈ること。ただそれだけですが、これからも心に覚えて祈り
続けるつもりです