昨年、友人に誘われて神田古書街に出かけた時のこと。
『あーるす・ぽえーてぃか」(斉藤和明著)という、ちょっとお洒落な
タイトルに惹かれて購入した本の中に、おまじないのようなフレーズが
書かれてあるのを見つけ、興味深く読んでみると…。
<ノリ・メ・タンゲレ>
「noli me tangere」はラテン語で、英語では「touch me not」。
「わたしに触るな」という意味で、鳳仙花の植物名なのだとか。
ちょっと触っただけで種がはじける鳳仙花にピッタリの名前です。
言葉に関連しているのだそうです。失意に沈むマグダラのマリヤが、
園の中で復活したキリストに出会い、それが主イエスであることが
分かった時に、喜びのあまりキリストにしがみつこうとするのを
制して言った言葉が「touch me not」でした。
そう考えると「わたしに触るな」という言い方は少し険しく乱暴なように
聞こえますが、実はイエスは、ご自分が御父のもとに帰る途上にあり、
昇天はまだ完結していないのだから、その道程を妨げてはならないと
思われたからでした。「我に触れるな」という拒絶ではなく、「いつまでも、
わたしにすがりつくのはよしなさい」という、失意から再び立ち上がる
ことへの励ましの意味が込められていたようです。
親しい交わりの中でイエスをよく知っていたはずのマリヤでしたが、
復活の主を見ても、すぐにはイエスと分かりませんでした。
「マリヤ」というイエスの声で、初めて主であることが分かったのです。
イエスを目の前にしても、「主は天に昇られた」「ここにいるはずがない」
「まさか、そんなことは信じられない」と咄嗟に思ったマリヤと同じように、
私たちの人生には、見ていても、正しい状況や物事の本質が見えて
いないことが何と多いのでしょうか。
「自分の先入観にとらわれてばかりいないで考えを切り替えなさい。
心の目で真実を見て、元気を出して、さあ、一歩を踏み出しなさい」
<ノリ・メ・タンゲレ>という短いフレーズの中に、そんな深い意味が
込められていたことを知って、なんだかすごく得した気分になりました。
これから鳳仙花という花の名を聞く度、また見る度に、この呪文の
ようなフレーズを思い出すことでしょう。
古書街めぐりも、なかなか良いものです。
鳳仙花の写真がなかったので、今年最後に咲いた百合をアップ!