「この世に一輪の白薔薇がある限り、人生は生きるに値する」
愛読書の一つ、熊井啓子著『私の部屋のポプリ』の帯に書かれていたフレーズ。
昔、生家の庭はミニ薔薇園でした。週末、父が噴霧器で除虫剤を撒くのを
手伝った思い出があります。背丈があり、たくさんの花を付けるホワイト・
クリスマスという純白の薔薇が好きでした。ゴージャスなのに優美さを併せ
持つ完全無欠なたたずまい。香り高く、気品に満ちた白い薔薇に、自分も
そうありたいと思う気持があったのでしょうか。今も白い薔薇を見ると、
キリッと気持が引き締まります。
それぞれ、人には違った「一輪の白薔薇」があると思うのです。自分を
突き動かすカンフル剤というと大仰ですが、それが何であれ、生きていく
上でのモチベーションに繋がるものがある人は、ハッピーですね。
薔薇好きのワード・コレクターとして、もう一つ紹介したい詩があります。
「摘める間に 薔薇の蕾を摘みなさい」
あなたが摘める間に
薔薇の蕾を摘みなさい
時は待っていてはくれない
今日 微笑のあるこの薔薇は
明日にはもう 散ってしまうのだから
17世紀イギリスの抒情詩人、ロバート・ヘリックの詩です。
時は待っていてはくれない。本当にその通りですね。生きている時間は限られて
います。ギリシア神話に時をつかさどるカイロスという人物が出てきます。
カイロスは正面から見るとフサフサの髪があるのですが、後頭部は禿げていて
髪の毛がありません。思いがけず、カイロスが良い知らせを持って目の前に
現れた時、とっさにその前髪をつかめれば良いのですが、一瞬、ためらって
いるうちにカイロスは通り過ぎ、つかまえることができません。機を見るに
敏なれ! ふだんからチャンス到来の備えとして、時を管理する者になりなさい
ということなのでしょう。
コロナウィルスの影響で先行きが不透明な今のような時こそ、一人ひとりに
与えられた限りある時間を大切に用いなければと、切に思います。